「韓流ラブストリー 恋の糸」第12話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第12話
著者:青柳金次郎


 怜音とジャンヨルを結ぶ恋の糸は二人の中に恋と言う名の花の苗を植え付けた。そして日々少しずつ成長していく。
「ジャンヨル、今週末何か予定ある?」
「いや、特にないよ。何処か行きたい処でもある?」
「うん、無いわけじゃないんだけどぉ、ちょっとジャンヨルが気にいるかどうか……」
「で、どこ?」
「うん……」
「怜音の行きたい処ならどこでも行くよ!」
「じゃぁ、温泉でも行こうか?」
「おっ、いいねぇ、そうしよう!」

そろそろ季節は夏から秋に移り変わろうとしていた。そしてゆっくりと過ぎていく二人の時間を怜音とジャンヨルは噛みしめるようにして過ごした。
「怜音、この電車は何処へ向かってるの?」
「今回私が選んだ温泉は、宮城県の名湯鳴子温泉です!」
「おぉ、そこ聞いたことがある。確か宮城県の秋保温泉、福島県の飯坂温泉とともに奥州三名湯に数えられた温泉だったよね。いいねぇ早く着かないかなぁ」
「駄目よ、ジャンヨル、鳴子温泉までの道のりも私達にとっては大切な時間なんだから、しっかりと楽しもうよ」
「あっ、そうだ、ゴメン! 俺ってせっかちだからつい……」
「もう、ジャンヨルったら……」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第12


 二人は新幹線で古川駅までゆき、そこから陸羽東線に乗り換えて快速で約40分、ちょっと遅い二人の夏休み、しかし蜜柑色の景色とミンミン蝉が二人を賑やかに迎えてくれた。
そしてそんな雰囲気の景色を眺めながら二人は鳴子温泉で下車した。
電車の外はムッとする夏の乾いた空気が漂っている。そんななか怜音とジャンヨルの繋いだ手は幸せそうにゆらゆら二人の間を揺れていた。
「ジャンヨル、何考えてるの?」
「う~ん、たぶん怜音と同じだと思うよ」
「えぇ、私と同じ?」
「そう、同じ……」
「…………」
「エッ、違った?」
「たぶん……」
「たぶんって……、じゃぁ、なに……?」
「…………」
「ナニ?」
「いやぁ、言えないよ……」
 ジャンヨルは怜音の顔を見乍らニンマリとした。
「分かった! 怜音、それって、エッチな事でしょう?」
「へへ~ん、バレタ……」

 ジャンヨルは怜音の顔を見詰め乍ら噴き出した。
「何で怜音はそんなに素直なの、分かりやすいよねぇ」
 怜音はジャンヨルを見詰め乍らニタニタしている。
「分かった! 取り敢えず宿へ行こうよ」
二人はタクシーに乗る。二人を乗せたタクシーは今夜の宿へと向かう。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第12


そして怜音が予約しておいた宿につくと中居さんが部屋へと案内してくれた。そして汗まみれの二人を見て露天風呂の説明と場所を説明してくれた。そしてお約束のように怜音が心付けを手渡すと中居さんはそれを受け取るとそそくさと部屋を出ていった。
「ジャンヨル、行きましたよ……」
「行きましたねぇ……」

 二人はニタニタと笑みを浮かべると、我慢の限界を超えたかのように強く抱き合い、お互いを求め合った。二人が抱き合う周りには汗がにじんだシャツと下着が畳の上に投げ捨てられている。
そして部屋の中は熱気がむんむんとし、二人が汗する声を掻き消さんばかりにミンミン蝉の鳴き声が窓の外から聞こえていた。二人はいろんな意味で限界に達していたようだった。そしてその状況から抜け出すことが出来たようだった。
一泊二日の温泉旅行はあっという間に終わり、家路へと向かう道中の二人には絶えず笑みがこぼれていた。
その後の二人はお互いの家を行き来するようになった。そして互いの想いを分かち合い、絆をどんどん深めていくこととなる。

こんな毎日が何か月か続き、街中にちらほら小雪が舞い始めたある日の事、二人を結びつけたあの企画が二人の間に割って入る。
「怜音、いよいよあの企画本格的に動き出すからしっかり働いてもらうわよ!」
「ハイ、勿論、望むところです!」
「…………」
「どうしました?」
「うん……、怜音、あなた、ソウルへ行ってもらうわよ!」
「エッ……」
 怜音は一瞬にしてミッコの顔を見詰めたまま身も心も凍り付き動きが停止した。
そしてミッコは怜音にとって衝撃的な宣告を告げると、怜音を見詰め乍ら小さく頷き踵を返した。
その宣告を受けた怜音はそのミッコの背中を見詰めたまま動くことも、声を出す事すら出来なかった。
(ついにこの時が来たかぁ……、ジャンヨル……)
 仕事漬けの日々に持ち上がったこの企画は怜音にとってもミッコにとっても夢のような話だったが、今の怜音にはその夢のような話だったこの企画が重くのしかかり、忌々しくも感じるのだった。

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