「韓流ラブストリー 恋の糸」第9話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第9話
著者:青柳金次郎


「で、昨日はどうだったの?」
「あ、昨日ですか……、食事して、カフェでお話して……」
「それから?」
「それで、お別れして帰りましたけど……」
「はっ、それだけ?」
「それだけですけど……」
「お昼って何処へ行ったの?」
「池袋ですけど、ジャンヨルの叔母さんのお店へ」
「え、ジャンヨルの叔母さんのお店って……、どういうこと?」
「どういうことって……」
「何で、そのジャンヨルの叔母さんのお店なんかで食事したの?」
「ジャンヨルが連れてってくれたから……」
「それって結構、ジャンヨルはマジってことじゃない!」
「マジって……、うそぉ、それって……、嫌だぁ」
「嫌なの、怜音?」
「全然!」
「だよねぇ、完全に怜音のタイプだもんねぇ」
「どうして分かるんですか?」
「あのねぇ、あなたと何年付き合ってると思ってるの? それに過去のあなたの男性経歴のすべてを知っている私が分からないはずがないでしょう」
「まぁそう言われると、確かに……」

大体の話を怜音から聞いたミッコは何かを確信してニンマリとして頷き怜音に言った。
「怜音、あなたジャンヨルとお付き合いしなさい。これは上司であり先輩である私からの命令でもあり、助言でもあるんだからね。分かった?」
「私がジャンヨルと? 命令でもあり助言でもあるって、どういうことですか?」
「怜音、あなたにはこれが最後で最高のチャンスかもしれないからよ!」
「最後で最高って?」
「とにかく売れ残って一生一人で生きてくなんて事になったらどうするの?私だってそんなあなたの姿を見たくないわよ。イイい? このチャンスを逃しちゃ駄目よ!」
「…………」
 怜音は半信半疑でミッコの話を聞いていたが、時間が経つにつれてじわじわと実感が湧いてきて一人デスクに腰を下ろし、満更でもないようでニタニタと笑みを浮かべて何やら一人で物思いにふけっていた。
「怜音、今週末例の件で打ち合わせすることになったから、そのつもりでいてね!」
「はい? そのつもりでって?」
「仕事でしょう! なにボーっとしてるの? 本当にあなたは分かりやすいわねぇ、すっかりその気になっちゃって、フフフゥ」
「え? ……そんなことないですよぉ、ちゃんと仕事とプライベートの区別はつきます」
「ハイハイ、とにかくヨロシク!」
 
ミッコにそう言われ、怜音の頭の中はジャンヨル一色になっていた。そしてその夜もK―アカデミーの韓国語講座でアミの授業を受けた。
「怜音さん、なんだかご機嫌ですね!」
「そう見える?」
「だって怜音さんは直ぐ表に出るじゃないですか」
「みんなにそう言われるんだけど、そんなに分かりやすいの、私って……」
「分かりやすいですよ! で、その彼とは今度いつ会うんですか?」
「今週末の夜、あっ、勿論仕事でよ。勘違いしないでね……」
「別に勘違いなんてしてないですよ。でも怜音さんは嬉しいんでしょう?」
「えぇ? そんなことないわよ」
「いやぁ、そんなことありますね! 顔が……、怜音さんって本当に分かりやすい人ですね!」
「へぇへぇへぇ……」
「なによぉ、それ? いやらしいなぁ」
 怜音とアミはまるで昔からの友達のように会話を交わし、その日の授業を終えた。怜音は冷蔵庫の扉を開けてハイトビールのプルタブを抜きのどの渇きを潤す。勢いよく流し込んだせいか一瞬クラっとしたが、フゥ~と溜息を吐きながら首を振り正気に戻る。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第9話


 そして週末の夜が来た。
「怜音、そろそろ行くわよ。準備は出来た……?」
「OKです」
「怜音……、あなた本当に分かりやすいわねぇ、化粧濃くない?」
「え、そうですか? いつもと一緒なんだけどなぁ」
「まぁいいや、とにかく頑張って!」
「えっ、嫌だぁ先輩ぃ、頑張ってって何をですかぁ?」
「まったく、完全にそのつもりのくせに、でも失礼のないようにしなさいよ。あくまでも仕事だからね、今夜は!」
「ハイ、了解しました」
「フゥー、まったくもう」
 完全に浮かれ気分の怜音だった。しかし時間が経ち打ち合わせの場所に着くころ怜音はガチガチに緊張しさっきまでの勢いは何処かへ消えていた。
「ミッコ先輩、何故だか緊張するんですけど、どうしよう……」
「何言ってんの? 仕事でしょう。あなた意識しすぎよ!」
 怜音はジャンヨルに会う前に、もう既に気持ちが舞い上がってしまっている。そこへ何時ものようにジャンヨルと吉田が現れる。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第9話


「お疲れ様! 待ちました?」
「いえぇ、私達も今着た処です」
「そう、じゃぁ早速始めますか、打ち合わせ」
「そうですね、怜音、お願いしていた書類出して」
「あ、ハイ……、えぇっと、あった!」
怜音の緊張度はマックスに達していた。ジャンヨルを目の前にしてガチガチになり周りの三人にもその様子は既に伝わっていた。
「どうしたの怜音さん? そういえばこないだジャンヨルと食事に行ったんだって?」
 吉田は怜音をちゃかす様に話を切り出した。それを聞いたミッコが話に割って入る。
「若い二人が食事くらい行ったっていいんじゃない」
 それを聞いたジャンヨルの方も怜音同様に俯き加減で照れを隠している。
「どうやら二人とも満更ではないようだな! 二人とも分かりやすいなぁ」
「本当ね、ジャンヨルも分かりやすいのねぇ」
「ああ、こいつも分かりやすいのなんのって! ジャンヨル、顔に出てるぞ!」
「えっ、そんなことないですよ……」
「似た者同士って処ね!」
 ミッコと吉田にちゃかされた二人は顔を赤らめ乍ら、お互いを見合うと、また俯き加減になり黙り込んでしまった。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第9話


「まったく二人とも今夜は仕事だぜ! あんまりあてつけるなよ」
「本当ね! まったく……」
ミッコと吉田は微笑みながら恋に落ちた二人を見守った。


前話を見る

この記事を書いたのは……

support事務局先生

>> support事務局先生の紹介ページへ
▼ この記事を読んだ人は