「韓流ラブストリー 恋の糸」第23話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 二十三話)
著者:青柳金次郎


「ミッコ……、俺達……」
「…………」
雄介の中でミッコとの関係に対しての不信感がグルグルと渦巻いている。雄介の視線は悠貴に向いている。そしてじっと瞼を閉じて俯いた。ミッコは悠貴の傍にしゃがみ込んだまま動かない。
その後しばらくの間、沈黙の時間が部屋の中を重くする。
「ミッコ、俺達終わりにしよう。もう俺耐え切れないよ――」
「…………」
ミッコは悠貴を見詰めたまま何も話さない。今、ミッコは悠貴の事が心配でそれどころではないといった雰囲気を漂わせ、雄介の言葉に何も返さない。
「ミッコ聞いてるのか?」
「…………」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第23


雄介は悠貴が生まれるまでは普通のサラリーマンとして出版社に勤めていた。だが悠貴が生まれた後、ミッコは一か月後会社に復帰したいと言いだした。雄介はもう少し時間を置いた方がいいんじゃないのかとミッコを説得した。が、ミッコは一切聞く耳を持とうとはしなかった。
そんなミッコに根負けして一人暮らしをしていた自分の母親を自宅に呼び、一緒に暮らす事をミッコに提案した。
それに対してミッコは何も意見することなく心よく受け入れた。そして悠貴の面倒はしばらくの間、殆ど雄介の母、佳代が見る事となる。
もともと雄介にとっては父親に先立たれ一人で暮らしていた母親の事が心配だったことから、いずれは一緒に暮らそうと考えていたこともあり、渡りに船のタイミングではあったのだが佳代が雄介に意見した。
「あなたはお父さんがあなたの小さい頃亡くなって何も感じずに生きてきたの?」
「…………」
「私は何時もあなたに不憫な思いをさせて申し訳ないと思っていた。さみしい想いをさせてごめん! と思っていたよ……」
佳代にそう言われてハッとなった雄介は、必ずその日から仕事を終え帰宅すると悠貴の顔色を窺うように接するようになった。
そんなある日のこと悠貴が雄介に話しかけた。
「パパ、来週父親参観日なんだって……」
「そうかぁ、お婆ちゃんに行ってもらうから大丈夫だよ」
「…………」
そのやり取りを佳代はじっと見守っている。悠貴は首を少し傾げ乍らぼそぼそと呟く。
「ママはこれないのかなぁ……、今日も遅いのかなぁ――」
雄介はミッコの立場も理解していた。しかし自分にも仕事がある、どうすればいいのか悩むばかりだった。
そんな時悠貴が雄介の顔をじっと見詰めている事に気が付く。
「……ヨシ! 今度の授業参観日はパパが行くよ。悠貴の頑張っている処、パパちゃんと見に行く、だから頑張って手を高く挙げて発表しろよ!」
「ウン! 分かった。悠貴がんばるよ。やったぁ、楽しみだなぁ」
この時初めて雄介は悠貴が自分の置かれている境遇を理解し我慢している事を知る。
(俺は何をやってたんだ、子供にこんな思いをさせて……)
雄介はすぐに決断する。そしてその夜ミッコの帰りを待って会社を辞めて家の事をすべてやる事を伝える。ミッコはその話を聞いて一言、雄介ごめんと謝った。
ミッコの中にも家のこと全てをほったらかしにしている罪悪感は何時もあった。だがそんな想いを掻き消してしまうかのようにラバーズは急成長していく、とても自分が会社を抜けられる状況ではないことも自覚せずにはいられなかった。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第23


そんな状況のミッコには雄介に頼るほかなかった。(ごめん、雄介……)
そして雄介は家庭に入り主夫として悠貴の傍にいながら家事全般を佳代から教わり毎日を送るようになる。
そんな時、もといた会社からある雑誌のコラムの執筆を頼まれる。時間に余裕のある雄介はアルバイトがてら書き始める。
するとそのコラムが徐々に人気を集めその雑誌の目玉となっていく。
それからは他の出版社からも仕事の依頼が入りだし、昼間は家事全般をやりながら夜はライター業に時間を費やすこととなっていく。
そして最終的には悠貴のこと以外は佳代にすがらなくてはならない状況となってしまう雄介だった。
しかし佳代は何一つ文句を言うことなく微笑み乍ら雄介もミッコさんも頑張りなさい。と二人に声を掛けてくれるのだった。
だが雄介は悠貴のことに関しては何があっても時間を空けて接した。
「悠貴、今度の休み公園でも行こうか?」
「エッ、いいの? パパ……」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第23


「いいに決まってるだろう、パパもたまには悠貴と二人で遊びたいんだ、付き合ってくれ!」
「うん、わかった! 付き合うよ――」
「コイツゥ~、じゃぁ約束だ!」
二人の親子の絆は悠貴が年を重ねる度に強くなっていった。
しかし雄介は自分と悠貴の距離が近くなっていく分、悠貴とミッコとの距離が遠のいているのではないかと心配だった。
そんな日々が続いた悠貴が小学4年生になった時に起きた事故だった。



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