「韓流ラブストリー 恋の糸」第13話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第13話
著者:青柳金次郎


 怜音はミッコから告げられた宣告が胸の中にずしりとのしかかり、何も手に着かない状況だった。
(はぁ~まいったなぁ、ソウルに行ったらジャンヨルとは離れ離れになるっていう事かぁ……)
 怜音は日本を離れることよりも、ジャンヨルと離れ離れになることの方がつらかった。考えまいとすればするほどどんよりとした思いが頭を埋め尽くしてゆく。
「怜音、気持ちはわかるけど仕事を優先してね。ジャンヨルにもこの事は伝わっているはずよ」
「ハイ、大丈夫です……」
 ミッコは怜音にこの宣告から逃げることが出来ない事を念押しした。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第13


「久しぶり怜音……、どうしたの?」
「エッ、何が?」
「何がって、何があったのって聞いてるんじゃないの」
「エッ、分かる?」
「だから、分かるから聞いてるんでしょう。大丈夫? 怜音……」
「……ねぇアミ、私どうしたらいいんだろう。仕事でソウルへ行くことになっちゃたの……」
「いいじゃない。ソウルに来たら私が案内してあげるわよ」
「そうじゃなくて、ずっとなの……」
「エッ、ずっとって……、どのくらい?」
「分からないの……、どうしようアミ!」
「あらぁ……、大変な事になっちゃったわねぇ」
「…………」
怜音の気持ちは誰かに話せば話すほどどんよりと重く沈んでいく、そしてK―アカデミーの授業が終わった後、怜音は堪らずジャンヨルに電話した。

「アッ、ジャンヨル、聞いた? 私……」
「聞いたよ。ソウルの話だろう、武人さんに釘刺されたよ。公私混同するなってさぁ」
「私もミッコ先輩にキツク言われちゃったよぉ、ねぇジャンヨルどうしよう?」
「どうしようって……、どうしようかぁ怜音……」
「ジャンヨルしっかりしてよ、私が聞いてるんじゃない!」
「俺やだよ、怜音と離れ離れになるの……」
「私だって嫌よ。はぁ~、どうすればいいの……」
 二人は思い悩んではいるのだが、心の片隅でどうする事も出来ないという事も分かっていて、責任感と言う壁の前を淋しさと不安が綯い交ぜになってできた想いが、ゆらゆらと揺れていた。  
そんな中、事業計画はどんどん進んでいった。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第13


「怜音、あなた韓国語の方はどうなってる?」
「エッ、それなりには……」
「それなりには、ってどうなのよ? それなりに話せるようになったって判断していいのかなぁ」
「たぶん……」
「フゥー、怜音あなたの気持ちはわかるけどジャンヨルとは少しの間、遠距離恋愛になると思うわよ」
ミッコにそう言われて思わずキューンと淋しさがこみあげる。しかしそれを表に出す訳にもいかずグッと堪えた。すると今度は瞼の奥がウルウルとしだす、その様をミッコに悟られたくなかった怜音は俯き加減で失礼しますと一言言うと踵を返した。
(やっぱり我慢するしかないんだよね……)

 一方ジャンヨルの方も直属の上司でもある武人に、怜音とのことで怜音の辛い立場をきちんと理解してやるように忠告されていた。
「怜音、俺、我慢するよ。それにソウルには知り合いもいるから暇見つけて会いに行くよ」
「本当に? 私の事忘れたりしない? 他の女の子に気移りなんかしちゃいやよ!」
「当然だよ、そんなことしない。怜音もソウルで男に騙されたりするなよ。韓国の男は強引だからなぁ、本当に心配だよ……」
 怜音のソウル行きが決まってからの二人の会話は殆どこんな感じの会話ばかりになった。またK―アカデミーのアミとのやり取りもアミが怜音を慰めるという会話が多かった。
「怜音、とりあえずソウルに来たら私が何時でもあなたの相談相手になるから元気だしなよ」
「フゥ~、アミありがとう。でも私大丈夫かなぁ、一人で毎日ちゃんと生活していけるかしら、不安だなぁ……」
「大丈夫よ、私が付いてるから」
 すっかりアミは怜音の友達であり大切な相談相手になっていた。
「怜音、ソウル行きの日取りが決まったわよ。年明け早々にはソウルに立ってもらうから身の回りのこと整理しといてね」
「年明けですかぁ……、分かりました」
(怜音、今は我慢してね……)
 
ミッコの気持ちも複雑だった。それは怜音とジャンヨルを武人と自分が歩んだ道と同じような方向へと導いている様な気がしてならなかったからだ。
「ジャンヨル、年明けに決まったわよ、ソウル行き……」
「ああ、聞いたよ。でも今は二人で頑張って乗り越えよう。その先にはきっと幸せな未来が待ってるよ」
「そうよね、私達の未来は幸せな未来しかないわよね! それまで我慢するよ、私!」
 二人とも強がってはみたが、少しずつ二人の距離が広がって行くのではないかと心配だった。

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