「韓流ラブストリー 恋の糸」第11話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第11話
著者:青柳金次郎


『ジャンヨル、愛してる、ずっとそばにいて……』
『ああ、怜音の傍にずっといるよ、絶対にはなさない!』
『わたしも……』
『…………』
ピピピピィ、ピピピピィ、ピピピピィ目覚ましの音が部屋中に響いた。
「なんだぁ、夢かぁ……、フフフゥ~ン……」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第11


 最近の怜音の頭の中にはジャンヨルの顔がいくつも浮かんでいる状態だった。
勿論ジャンヨルも怜音同様に頭の中は怜音のことでいっぱいになっていた。
「怜音、今週末は例の企画の打ち合わせだから予定開けといてね」
「ハイ、空いてます!」
「嬉しそうね。あまり公私混同はしないようにね。仕事は仕事だからね!」
ミッコは怜音にピッシっと言いつけた。怜音はミッコの口調と表情を目の前にして自分が浮かれている事に気付くと、即気持ちを入れ替え、ミッコの気持ちを受け止めミッコに返した。
(ヤバイヤバイ、最近私、確かに浮かれすぎてたわぁ……)
 怜音はその日からまた気持ちを入れ替えて仕事に打ち込み始めた。
そして週末の金曜日、何時ものように夕陽が差し出し、辺りがオレンジ色に染まり始めた頃、ミッコが怜音のデスクに現れた。
「そろそろ行こうか怜音、どう? 行けそう?」
「ハイ、大丈夫です。すぐにでも行けます」
 怜音は、はやる気持ちを抑えながら返事をした。ミッコはそんな怜音の心境がいたいほどわかっていたが、あえて気付かないふりをして踵を返した。
 ミッコはあくまでも怜音に仕事と言う事を忘れさせないように接した。怜音はそんなミッコの様子を見る度に自分の気持ちを引き締めた。
「お疲れ様、二人ともどうぞ! 座って」
 武人とジャンヨル達の方がミッコ達よりも一足早く着いていた。
「ごめんなさい。待った?」
「いやぁ、俺達もつい今しがた着いたところさ! 取り敢えず始めようか」
「そうね!」
武人とミッコは阿吽の呼吸で打ち合わせを進めていく。それに遅れまいと怜音とジャンヨルは必死について行く、と言った具合だった。
武人とミッコが漂わせる雰囲気は怜音とジャンヨルに緊張感を与えた。
そんな中、打ち合わせは無事に終わった。
「さぁ、仕事はここまでだ! 飲もうぜ、みんな!」
「ジャンヨル、注文しよう! 店員さんを呼んで来い!」
「ハイ!」
 何時もの調子に戻った武人の様子を見て、ジャンヨルは笑顔を浮かべた。勿論ミッコも同じように怜音に笑顔を向けていた。
「さぁ、それじゃ、お疲れさん!」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第11


武人の乾杯の音頭で四人はジョッキをぶつけた。怜音とジャンヨルはいきなり様子の変わった武人とミッコに戸惑いながらも笑顔をこぼした。
打ち合わせを終えた後の武人とミッコは何時ものように笑顔を浮かべ乍ら、冗談交じりにジョキイを傾けている。
一時間ばかりたった時、武人が席を立ち帰り支度を始める。それを見たミッコも伝票を片手に会計を済ませに席を離れる。残された二人は何時もよりも早い終りに、顔を合わせ乍ら首を捻った。
「あなた達、私達はこの辺で帰るけどどうする?」
「一人者同士で飲みに行ったらどうだ?」
「そうね、それもいいわよねぇ……」

 ミッコは怜音の顔を見乍ら笑みを浮かべた。武人もジャンヨルの顔緒を見乍ら微笑んでいる。
どうやら二人は最初からそのつもりで仕事の打ち合わせをさっさとすませ、渇いたのどを急いで潤し、帰り支度を始めたのであった。
それに気付いた怜音とジャンヨルは二人に頭を下げ乍ら、行ってきますと声を合わせた。
 そして怜音とジャンヨルはネオン輝く街の中へと消えていった。武人とミッコはそんな二人の後姿を見送った。
「本当にアイツら妬けるよなぁ、羨ましいよ……」
「妬かない、妬かない! 武人、私だってあなたと同じ気持ちよ。でも私達の目の前にいる二人は、私達じゃないんだよ!」
「分かってるよ!」
「でも、似てるわね。あの時の私達に……、恋することも、それに傷つくことも、全部初めてだったよね……、」
「フッ、そうだったよな、俺、覚えてるよ。結婚すると決めときながら、お前を守るどころか悲しますような決断をしてしまった自分を責めて、責めて……」
「もう過ぎ去った事だよ。タ・ケ・ト……」
 ミッコは今でもそんな風に言ってくれる武人のことが愛おしく思えた。

 一方、怜音とジャンヨルは初めての二人だけの夜を満喫していた。怜音は流れていく時間一分一秒を肌で感じながらこれから先もずっと、この素敵な時間が続けばいいのに、と願った。
またジャンヨルは、そんな一分一秒にどっぷりと浸かりながら怜音のすべてを自分の体に刻み込んでいた。
 そしてそんな二人を包んでいた時間は刻々と過ぎていき、街のネオンの灯りも消え始めた頃、怜音とジャンヨルは街路をフラフラと二人並んで歩いていた。
だが二人ともお互いに何かを伝えたくて、伝えたくて堪らなかった。しかし上手く伝えられない。
そして時間はそんな二人を置き去りにして夜をつれて過ぎ去って行く。
やがて辺りはほのかに明るくなっていく。そんな中、怜音はジャンヨルをじっと見つめる。そしてそんな怜音をやっとジャンヨルは抱き寄せる。
「怜音……」
「ジャンヨル……」
「…………」

 やがて薄明るくなってくる街角で二つのシルエットは一つになった。

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