「韓流ラブストリー 恋の糸」第14話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第14話
著者:青柳金次郎
 
 
「怜音、俺やっぱり心配だからソウルまで送ってくよ」
「エッ、ソウルまで……」
「そう、ソウルまで!」
「本当に? でも仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫さ、その代り日帰りだけどね」
「あ、そうか、ソウルって日帰りできるもんね」
この時怜音の心の中を覆い尽くしていた不安が少しだけ取り除かれた気がした。
(そうかぁ、東京都とソウルって日帰りが出来るんだぁ……)

 しかしどんどん別れが近づくにつれて怜音の気持ちは沈んでいくばかりだった。
そんな中、一先ず東京での授業は最後となったK―アカデミーの授業で怜音は出発の日、アミと仁川空港で待ち合わせをした。
 その後少ししてジャンヨルからメールが入る。『出発当日は仁川空港まで送るから、それと紹介したい人がいる』と綴られていた。
怜音はジャンヨルが言う紹介したい人という言葉が気になった。
「怜音、今晩飲みに行こうか? 当分あなたとも会えないしね……」
「ハイ、行きます。今夜は東京最後の夜だ、飲むぞぉ!」
「最後って、行きっぱなしじゃないんだからね。勘違いしないでね」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第14


ミッコはこの時、怜音の覚悟を理解した。だが理解すればするほどミッコの心の中は複雑な思いに埋め尽くされた。そしてその夜ラバーズのスタッフ一同集まっての飲み会となった。飲み会は深夜遅くまで続いた。
「怜音先輩、ソウルにいっても頑張ってくださいね。 私時々応援に行きます。その時は怜音先輩の家に泊めてくださいね」
「真央、あなたはソウルに買い物旅行したいだけでしょう。そのついでに宿泊費浮かそうと考えてるんでしょう?」
「そんなことないですよぉ、私怜音先輩と離れ離れになるのが寂しいんです。ミッコ先輩の意地悪!」
「いいわよ、みんなも縁了なく遊びに来てね。家でよかったら泊っていっていいから」
 
ラバーズはミッコの独断と偏見で後輩達が働きたいという言葉を快く受け入れている。そのせいもあって社内は気心知れた同じ大学の後輩も少なくなかった。
翌日、前夜のお酒が残る中、怜音は部屋のかたずけを終え、シーンと静まり返った部屋にポツンと立ちつくしていた。窓の外はオレンジ色に染まり始めている。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第14


(この部屋から全てが始まったんだよなぁ、大学に通い始めてミッコ先輩と知り合い、そしていろんな思い出を作って……、あっと言う間に十年が過ぎちゃったなぁ……)
 明日はいよいよソウルへ旅立たなければならなかった。怜音の心の中に押し寄せる淋しさが我慢の限界に達していた時、インターホーンの音が鳴り響いた。
「エッ? 誰だろう……」
 怜音は玄関のドアをゆっくり開けた。
「…………」
「やぁ……、来ちゃった。最後の夜くらい一緒にいたくてさぁ……」
「ジャンヨル!」
 怜音は思わずジャンヨルに抱き付いた。すでに怜音の顔は涙でグチャグチャになって歪んでいる。怜音の心の中を埋め尽くしていた淋しさが一気に溢れ出し頬を伝う。怜音はジャンヨルを見詰めた。
「ジャンヨル……、私……」
 その続きを口にしようとした時、怜音の唇にジャンヨルの唇が重なり続きを遮った。そしてジャンヨルは怜音を強く抱きしめる。二人の抱き合うシルエットがオレンジ色から濃い朱色に染まり始めた時、窓の外には夕星が輝き始め、まるで二人を見守っているようだった。
 
翌朝、朝靄が煙る中、二人は桜坂を並んで歩いていた。そして通りに出た処でタクシーを拾い空港へと向かった。
 タクシーは高速を降りて空港へとどんどん近づいて行く、二人の繋いだ手に少しずつ力がこもって行った。
そして空港に到着する。外は朝日が差し始めていた。タクシーを降りると怜音の荷物をジャンヨルが手に提げ、もう片方の手で怜音の肩を抱いた。ロビーに入ると先について待っていたミッコが二人を出迎えた。
「おはよう。いよいよね!」
「おはようございます……」
「怜音、しっかりやってきなさい。会社の仲間達もみんなあなたの成功を願ってるわよ!」
「……ハイ!」
 そのミッコの言葉で怜音の心の中を埋め尽くしていた曇った気持ちはスーッと吹き消されていった。
(そうだった、私には離れていても応援し続けてくれる人たちがいるんだ。ジャンヨルと離れ離れになるからってしょげてちゃいけないんだ)
その怜音の微笑む表情を見たジャンヨルはホッとした顔で怜音を見詰め微笑んだ。
「さぁ、時間よ。行って来なさい!」
「行こうかぁ怜音!」
「ウン!ミッコ先輩行ってくるね……」
 ミッコは怜音への思いで瞼が潤みかけるが、それを怜音が満面の笑みで遮った。
そして二人はソウルへ向けて旅立った。

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